これからの脱炭素経営

株式会社 バンテック

鈴木大介氏(工学博士)

社会が脱炭素へとシフトしたことで、環境・エネルギー分野のアカデミア人材には、産業界から意見を求められたり、産学連携による共同研究を持ちかけられるケースが増えています。ここでは、クリーンエネルギー・環境科学の分野で博士号を持つオーソリティであり、企業経営者、NPO法人の代表としても活動する鈴木大介氏のオフィスを訪問。カーボンニュートラル時代の企業経営のあり方と、Green Bizシステムへの評価などに関して、お話をうかがいました。

鈴木大介氏

鈴木大介(すずき・だいすけ)
1979 年、栃木県那須塩原市生まれ。武蔵工業大学(現:東京都市大学)工学部エネルギー基礎工学科卒。宇都宮大学大学院 工学研究科 エネルギー環境科学専攻 博士後期課程修了。 2006 年、株式会社バンテック入社。2012 年より同社 専務取締役。また、2017年には、電気設備工事などを手掛ける鈴木電機株式会社の代表取締役社長に就任。 2022 年、再生可能エネルギー事業によって地域関係者を巻き込んだ環境意識醸成活動を展開する「那須野ヶ原みらい電力株式会社」を設立し、代表取締役社長に就任。研究活動と 企業経営の傍ら、栃木県北部の那須地域で、水源林の保全を目的に設立された「特定非営利活動法人 1000 年の森を育てるみんなの会」の代表も務める。

「事業に使う電源に何を選ぶか?」は、
サスティナビリティに対する企業の考え方が、
最も端的に反映される要素になる

-----鈴木博士が、地球環境の保全に関心を持った原体験は?

鈴木氏:子供の頃に理科の授業で使われていた視聴覚教材や、テレビで取り上げられる気候変動やゴミの問題、飢餓で苦しむ子供たちの姿を観て、これらの解決のために自分でも何か行動できないだろうかと考え始めたのが、原点になっています。

-----研究者としての専門分野について、教えてください。

鈴木氏:社会人になり、企業組織の中で燃料電池や水素発生装置の開発に従事してきたのですが、品質の安定した製品を生み出すために、宇都宮大学の大学院に入学し、学ぶことにしました。博士課程では、水の電気分解に用いる電極の研究開発に取り組んでいました。

-----研究活動で得られた知見と成果を、社会へどのように役立てていくお考えでしょうか?

鈴木氏:私の主な活動拠点である栃木県那須エリアを例に挙げますと、豊富な水資源を活かして、水の電気分解によって水素を製造し、酸素と反応させることで、クリーンなエネルギーを手軽に利用できる基盤づくりに貢献したいのです。温室効果ガスを出さないエネルギーを地域に普及させることで、那須エリアのブランドイメージ向上につながれば、とてもうれしいですね。

-----その構想を実現するために、具体的な活動に着手されているのだとか・・・。

鈴木氏:2022年の春に、那須塩原市と民間企業4社、あと地域金融機関などとの共同出資で「那須野ヶ原みらい電力」という地域新電力会社を立ち上げまして、那須エリアで再生可能エネルギーの開発・普及を推進しています。カーボンニュートラルを後押しする国の施策や制度も、可能な限り活用していきます。そのひとつが「グリーン電力証書」です。

那須野ヶ原みらい電力ロゴ

----- C02をほとんど放出しないという環境面の「付加価値」を取引できる制度にはいくつかありますが、その中でグリーン電力証書ならではのメリットを、どのようにとらえていますか。

鈴木氏:まず「非化石証書」は、小売電気事業者でないと購入できません。また、「Jクレジット」はグリーン電力だけに限らず、省エネ設備の導入や森林管理によって実現したCO?の削減・吸収量も環境価値とみなされる認証制度です。一方、グリーン電力証書は、再生エネで発電された電力だけに特化した証書ですので、一般の事業者には最も馴染みやすい制度だと思います。たとえば、ビルや商業施設の一部をテナントとして借りており、電源を選べない事業者であっても、グリーン電力証書を購入することで環境に貢献していると社内外にアピールできます。

-----当社が今回、グリーン電力証書の長所を活用して開発した「Green Bizシステム」への評価を、聞かせていただけますか。

鈴木氏:再生エネルギー事業者と導入事業者だけでなく、最終消費者であるお客様とも連携したエコサイクルを実現している点が、とても良いですね。また、貴社のシステムに限ったことではありませんが、グリーン電力証書の購入代金の一部は、新たな再エネ設備への投資や技術開発にも振り向けられます。この特長は、SDGsの実践意欲が高いZ世代・ミレニアル世代の消費者には、特にアピールできる部分です。だからこそ、お客様とも連携した貴社独自の共創モデルは、事業者にとってビジネスを差異化できるツールになるでしょう。

鈴木大介氏

-----再生可能エネルギーの技術と、企業経営の両方に明るい鈴木博士に、カーボンニュートラル時代の企業経営のあり方について、おうかがいします。

鈴木氏:現在、気候変動によるマイナスの影響は世界各地で顕著になり、「気候危機」と呼ばれる時代に突入しました。このままでは私たちの子どもたちの時代は、一体どのようになってしまうのでしょうか。「環境対策はコストである」という時代は、終わりを告げました。そして日本政府も「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、今後は環境保全やSDGsに取り組まない企業は淘汰されていくと見ています。環境の分野にはいっそう多くの投資が見込まれ、ビジネス的にも大きなチャンスを迎えています。その有力な手法のひとつが、グリーン電力証書の活用なのです。「事業に使う電源に何を選ぶか?」は、社会のサスティナビリティに対する企業の考え方が、最も端的に反映される要素になるでしょう。

-----鈴木博士と当社の出会いについて、あらためてご紹介ください。

鈴木氏:環境関連技術の展示会で、貴社の小坂会長(9月以降 確認)から声を掛けられたのが、最初の出会いでした。その後、2007年にグリーン水素の製造プロジェクトで協業するなど、15年以上にわたって交流が継続しています。ディーアイシーさんは常に時代の先を読み、新しい事業モデルにチャレンジし続ける企業だと感じています。

【関連リンク】
那須野ヶ原みらい電力
https://nasunogahara-mirai.de-power.co.jp/
1000年の森を育てるみんなの会
https://1000mori-nasu.com/